「作っただけ」で終わらせない!自治体の防災GISを本当に役立たせる5つの処方箋
あなたの街にも「防災GIS」はありますか?多くの自治体が導入しているこのシステムですが、「いざという時に本当に使えるのか」「担当者しか使えない宝の持ち腐れになっているのでは?」という声も少なくありません。
高機能な防災GISも、使われなければ意味がありません。今回は、自治体の防災GISを、単なる地図システムから市民の命と暮らしを守る「生きたツール」に変えるための、具体的な5つの処方箋を提案します。
処方箋1:目的を「ひとつ」に絞り込む
防災GISは多機能ですが、だからこそ目的が曖昧になりがちです。まず、「誰の、どんな課題を解決するのか」という目的を一つ、徹底的に絞り込みましょう。
例1:住民向けの情報提供に特化する
「私の家は安全?」「一番近い避難所はどこ?」という住民の問いに、スマホで10秒以内に答えられるマップを目指します。ハザード情報と避難所開設状況だけを、極限までシンプルに見せることに集中します。
例2:災害対策本部の意思決定支援に特化する
被害情報が錯綜し、人や物資をどこへ送るべきか判断できない、という課題を解決します。通報や市民からの被害報告を一つの地図に集約し、被害の集中エリアと対応可能な部隊を可視化することに集中します。
「あれもこれも」ではなく、最も重要な課題解決に特化することで、システムの役割が明確になり、利用者も迷わず使えるようになります。
処方箋2:「普段使い」でシステムを鍛える
災害時にしか使わないツールは、いざという時に絶対に機能しません。平時に使われないツールは、災害時にはただの置物です。
日常業務での活用
道路の陥没箇所管理、公園の樹木管理、不法投棄場所のパトロールなど、地図を使うあらゆる業務で防災GISを「普段使い」します。これにより、職員は操作に慣れ、データも常に最新の状態に保たれます。
訓練での徹底活用
防災訓練のシナリオにGISの活用を必ず組み込みます。「地図上で被害状況を入力し、対策本部と共有する」「GISの情報を基に、避難広報車をどこへ向かわせるか判断する」といった実践的な訓練を繰り返すことが重要です。
処方箋3:データの「入口」と「鮮度」を設計する
GISの価値はデータの質、特に「鮮度」で決まります。静的なハザードマップだけでなく、リアルタイムに変化する状況を取り込む仕組みが必要です。
鮮度を保つ仕組み
電力・ガス・水道といったライフライン事業者とデータ連携協定を結び、インフラ被害情報をリアルタイムで地図に取り込みます。また、河川の水位計や監視カメラの情報をGISに統合します。
リアルタイム情報の「入口」を作る
市民がLINEや専用アプリを使って、「道路が冠水している」といった被害状況を写真付きで簡単に通報できる仕組みを導入します。市民が「目」となり、行政だけでは把握しきれないリアルタイムの被害情報を集めることができます。
処方箋4:誰でも使える「入口」と「出口」を用意する
災害時の極限状況では、複雑なシステムは機能しません。「シンプル」こそが最強の機能です。専門家でなくても、誰もが直感的に情報を入力(入口)し、理解(出口)できるデザインが不可欠です。
簡単な入口(入力)
市民や現場の職員からの被害報告は、選択式や写真投稿など、スマートフォンで数タップで完了するシンプルなインターフェースを目指します。
分かりやすい出口(出力)
住民向けのマップは「避難すべきか否か」が瞬時にわかるデザインに。職員向けのマップも、意思決定に必要な情報だけを優先して表示するダッシュボード形式にするなど、役割に応じた見せ方が求められます。
処方箋5:市民と企業を「チーム」として巻き込む
防災は行政だけで完結するものではありません。市民や企業を、単なる「情報の受け手」ではなく、「防災GISを共に作り上げるチーム」として巻き込む視点が重要です。
市民との協働
処方箋3で挙げた市民からの被害報告は、まさに市民との協働です。平時から地域の防災活動でGISマップを活用してもらい、地域の危険箇所を市民自身が入力・更新していくといった取り組みも有効です。
企業との連携
地域の物流企業と連携し、災害時に通行可能な道路情報を共有してもらう。建設会社と連携し、重機や資材の配置状況を地図上で共有するなど、民間の持つ専門知識やリソースをGIS上で連携させます。
おわりにひとこと
本当に役立つ防災GISとは、単一の「システム」ではありません。行政、市民、企業が連携し、平時から情報を更新・活用し、災害時に共有された情報(地図)を見て最適な行動を取るための「生態系(エコシステム)」そのものです。
「システム導入」をゴールとせず、このエコシステムをいかに育てるか。その視点こそが、防災GISを本当に役立たせるための鍵となります。
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