橋や道路の“見えない危険”をどう防ぐ?──点検結果から考えるGIS活用

今年の点検結果から見えたもの

昨日(8月25日)、国土交通省が2024年度(令和6年度)の橋梁などの点検結果を発表しました。国土交通省 報道発表資料(2025年8月25日)

今回の「道路メンテナンス年報」では、全国の橋梁・トンネル・道路附属物などを対象にした3巡目の点検状況がまとめられています。
ポイントをざっと挙げると、

  • 橋梁:18%、トンネル:17%、道路附属物:18%が点検済み。順調に進捗。

  • 修繕が必要な橋梁(判定区分Ⅲ・Ⅳ)は 約5.3万橋、トンネルは 約3,100箇所

  • 特に問題なのが、地方公共団体の修繕着手率の低さ。国交省や高速道路会社に比べて遅れが目立ち、次回点検(5年以内)までに措置が終わらないリスクが指摘されています。

つまり「壊れそうな施設が分かっているのに、直せていない」──これが大きな課題なのです。


注目を集めた“空洞調査”

マスメディアで大きく報じられたのは「路面下空洞調査」でした。
2024年度に国交省が調査した延長は 3,079km(全体の約15%)。その結果、4,739箇所で空洞が確認され、うち119箇所は陥没リスクが高いと判定。これらはすでに修繕に着手済みです(完了は118箇所)。

1月に埼玉県八潮市で道路が陥没する事故があったこともあり、どうしても「空洞=不安」という図式が注目を集めます。ただし、国交省は詳細な場所を公表していません。住民に過度の不安を与えないためという配慮でしょうが、「じゃあ自分の町は大丈夫なの?」と感じる人も少なくないはずです。


本当の課題は“修繕の遅れ”

空洞調査よりも深刻なのは、地方公共団体の修繕の遅れです。
例えば2019年度点検で「早期に修繕が必要」とされた橋梁のうち、5年以上経っても未着手のものが約2割残っているというデータも示されています。

財源不足、人員不足、情報整理の煩雑さ……さまざまな理由はありますが、結局「危ないと分かっているのに手がつけられていない」という状態が各地で続いているのです。


GISで“見える化”すれば変わる

ここで力を発揮するのが GIS(地理情報システム) です。

  • 点検結果の地図化
     修繕が必要な橋や道路を地図上に表示すれば、「どこが危険か」「どの自治体が抱えている課題か」がひと目で分かります。

  • 優先順位の見える化
     交通量や住民数、防災上の重要度と重ね合わせれば、どこから修繕すべきかを合理的に判断できます。

  • 住民への安心提供
     市町村単位で「ここはすでに修繕済み、ここは計画中」と公開すれば、不安をあおるのではなく安心感を伝えることも可能です。

  • 国と自治体の連携強化
     国交省のデータベースと地方自治体のGISをつなげば、補助金配分や作業進捗の把握もスムーズになります。



今回の点検結果を読むと、「空洞調査で陥没リスクが高いとされた119箇所は全て修繕に着手済み」という安心材料が強調されています。

でも、その裏には「まだ直せていない橋やトンネルが多数残っている」という現実もあります。

そのギャップを埋めるには、危険を正しく“見える化”し、限られたリソースをどう配分するかが重要です。
GISはその強力な道具となり得ます。

道路や橋は、生活を支えるインフラ。壊れてから慌てるのではなく、壊れる前にどう守るか。
“見えない危険”を“見える安心”に変えるGISの活用が、これからますます鍵になっていくのではないでしょうか。


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