【第10回】データの可能性を解き放つ!iDesktopX空間解析入門

 こんにちは!GIS導入支援コンサルタントのippuku_timeです。

「5分で分かるSuperMap iDesktopX製品・機能紹介シリーズ」、記念すべき第10回です!前回は必要なデータを抽出する「クエリ」を学びました。今回は、その抽出したデータを使って新たな知見を生み出す、GISの最も強力な機能「空間解析」についてご紹介します。空間解析は、単なる地図作成を超え、地理的な問題解決や未来予測を可能にするための鍵となります。


【第10回】データの可能性を解き放つ!iDesktopX空間解析入門


1. 空間解析とは?

空間解析とは、地理空間データの位置や形状、属性情報を基に、その分布パターン、関係性、時間的変化などを分析し、地理的な事象の背後にある意味や法則性を解き明かす一連の手法です。iDesktopXは、ベクタデータラスタデータの両方に対応した、包括的な空間解析ツールを提供します。

図 空間解析の概念イメージ:データから新たな地理的知見を導き出す


2. ベクタ解析:形状に基づく関係性の分析

点、線、ポリゴンといった明確な形状を持つベクタデータに対する解析です。

(1) バッファ分析 (Buffer Analysis)

特定のオブジェクトから一定距離内の領域(バッファ)を作成する機能です。「港区の各駅から半径500mの徒歩圏エリア」や「首都高速道路から50m以内の騒音影響が想定されるエリア」などを可視化するのに使われます。

(2) オーバーレイ分析 (Overlay Analysis)

複数のレイヤーを重ね合わせ、新たなレイヤーを作成する、GIS解析の基本中の基本です。「港区の土地利用図」と「浸水想定区域図」を重ね合わせることで、「浸水リスクのある商業地域」を具体的に抽出する、といった解析が可能です。

① インターセクト (Intersect): 複数のレイヤーが重なり合う部分のみを抽出します。

② ユニオン (Union): 複数のレイヤーをすべて合成し、1つのレイヤーにします。

③ クリップ (Clip): あるレイヤーの形状で別のレイヤーを切り抜きます。


3. ラスタ解析:連続的なサーフェスの分析

ラスタデータは、地表面をピクセルの集まりとして表現します。標高、気温、降水量など、連続的に変化する現象の分析に適しています。

(1) サーフェス分析 (Surface Analysis)

主にDEM(数値標高モデル)データから、地形に関する様々な情報を抽出します。

① 傾斜・傾斜方位分析: 各地点の傾斜の急さ(傾斜)と、その斜面がどちらを向いているか(傾斜方位)を計算します。港区内の坂道の勾配を可視化したり、建物の日当たりを評価したりするのに活用できます。

② 可視領域分析: 東京タワーの展望台から見える範囲を計算するなど、特定の地点からの可視範囲を分析します。

③ 断面分析: 指定したライン(例:地下鉄日比谷線)に沿った標高の断面図を作成し、地形の起伏を評価します。

(2) 密度分析 (Density Analysis)

点データの発生密度を計算し、ヒートマップとして可視化します。港区内のどのエリアにカフェが集中しているか、あるいは交通事故が多発しているかといった「ホットスポット」を特定するのに非常に有効です。


4. 水文解析:水の流れをシミュレート

DEMデータを用いて、地表の水の流れをシミュレートする専門的な解析機能です。ゲリラ豪雨が発生した際に、港区の地形では水がどのように流れ、どこに溜まりやすいかを予測するなど、都市の防災計画に不可欠な分析です。


5. 空間統計解析:地理的パターンの発見

統計学的な手法を用いて、地理的データの分布パターンに隠された「意味」を探ります。

(1) クラスター分析(ホットスポット分析)

ある事象(例:特定の犯罪の発生件数)が、偶然とは考えにくいほど統計的に有意に集中している場所(ホットスポット)や、逆に発生が少ない場所(コールドスポット)を特定します。

(2) 地理的加重回帰(GWR)

複数の要因(例:駅からの距離、公園までの距離、商業施設の数)が、ある事象(例:住宅価格)に与える影響を分析します。この分析の特長は、場所によって各要因の影響度が異なることを考慮できる点です。


まとめ


今回は、GISの強力な分析機能である「空間解析」の概要をご紹介しました。バッファやオーバーレイといった基本的なベクトル解析から、地形や気象を扱うラスタ解析、さらには統計的なパターンを解き明かす空間統計解析まで、iDesktopXは幅広い分析ツールを備えています。これらの機能を組み合わせることで、単なるデータの可視化を超え、地理的な課題に対する深い洞察や、科学的根拠に基づいた意思決定が可能になります。

次回は、**第11回「最適なルートはどれ?交通ネットワーク解析」**です。道路網データを使って、最短経路の探索やサービスエリアの計算など、私たちの生活に身近な交通に関する問題を解決する機能を見ていきます。お楽しみに!


付録:サンプルコード(Python)


空間解析の代表例として、港区のコンビニ(点データ)の発生密度をカーネル密度分析で計算し、結果をラスタデータセットとして保存するPythonコードです。

Python


# -*- coding: utf-8 -*-

from PySuperMap import *
from PySuperMap.Analyst import *

def spatial_analysis_in_minato():
    """
    空間解析(カーネル密度)を実行するサンプル
    """
    try:
        # ワークスペースとデータソースを取得
        workspace = Workspace()
        datasource = workspace.get_datasource("Minato_Data")
        if datasource is None:
            print("データソース 'Minato_Data' が見つかりません。")
            return

        # 入力となるポイントデータセットを取得 (例: "Convenience_Stores")
        point_dataset = datasource.get_dataset("Convenience_Stores")
        if point_dataset is None or point_dataset.get_type() != DatasetType.POINT:
            print("ポイントデータセット 'Convenience_Stores' が見つかりません。")
            return

        print("コンビニエンスストアのカーネル密度分析を開始します...")

        # 1. カーネル密度分析のパラメータを設定
        density_param = KernelDensityAnalystParameter()
       
        # 検索半径を設定 (単位はデータセットの座標系に依存。ここではメートルを想定)
        density_param.set_search_radius(300) # 検索半径300メートル
       
        # 結果のラスタデータのセルサイズを設定
        density_param.set_cell_size(20) # 20x20メートルのセル
       
        # 密度値を表す単位 (1平方キロメートルあたりの店舗数)
        density_param.set_density_unit_type(DensityUnitType.SQUAREKILOMETER)

        # 2. 結果データセットの名前と保存先を設定
        result_dataset_name = "Convenience_Store_Density"
       
        # 3. カーネル密度分析を実行
        result_dataset = SpatialAnalyst.kernel_density(point_dataset, datasource, result_dataset_name, density_param)
       
        if result_dataset is not None:
            print(f"カーネル密度分析が完了し、結果が '{result_dataset_name}' として保存されました。")
           
            # 結果をマップに追加して可視化(オプション)
            map_view = workspace.get_active_map_view()
            if map_view is not None:
                map_obj = map_view.get_map()
                layer = map_obj.get_layers().add_dataset(result_dataset)
                # カラーテーブルを適用して見やすくする
                layer.set_is_color_table_enabled(True)
                map_obj.refresh()
                print("結果を現在のアクティブな地図に追加しました。")
        else:
            print("カーネル密度分析に失敗しました。")

    except Exception as e:
        print(f"エラーが発生しました: {e}")

if __name__ == '__main__':
    spatial_analysis_in_minato()

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