「5分で分かるSuperMap iDesktopX製品・機能紹介シリーズ」、第11回です!前回はバッファやオーバーレイといった GISの強力な「空間解析」機能をご紹介しました。今回は、その中でも特に私たちの日常生活に密接に関わる「交通ネットワーク解析」について解説します。カーナビのルート検索や配送計画など、身近なサービスの裏側で活躍するGISの技術を覗いてみましょう。
【第11回】最適ルートを探索!iDesktopXの交通ネットワーク解析
交通ネットワーク解析とは、道路や鉄道などのネットワークデータを使い、ある地点から別の地点への最適な経路や、特定の施設から到達可能な範囲などを計算・分析する手法です。単なる地図上の線ではなく、一方通行、交差点での右折禁止、道路ごとの平均速度といった「ルール」や「コスト」を持ったインテリジェントなデータとして扱うのが特徴です。 図11-1 港区の道路網上で最適ルートを探索するイメージ
1. 解析の準備:ネットワークデータセットの構築
解析を始める前に、まずは通常の道路ラインデータを、解析可能な「ネットワークデータセット」に変換する必要があります。この処理により、線の接続関係(どこが交差点か)が定義され、移動にかかる時間や距離といった「コスト」情報を付与することができます。iDesktopXには、既存のラインデータから簡単にネットワークデータセットを構築するツールが用意されています。
2. 主要な道路網解析機能
ネットワークデータセットが準備できたら、いよいよ解析です。iDesktopXが提供する代表的な機能を見ていきましょう。
(1) 最短経路分析 (Shortest Path Analysis)
最も基本的で分かりやすい機能です。「最短」といっても、単に距離が最短なだけでなく、「移動時間が最短」「高速道路料金が最安」といった様々な条件で最適なルートを探索できます。
① 利用シーン: 港区の六本木ヒルズから品川駅まで、朝の渋滞を考慮して最も早く着くルートを検索する。
(2) サービスエリア分析 (Service Area Analysis)
ある地点から指定した時間や距離で到達できる範囲(サービスエリア)をポリゴンとして算出します。
① 利用シーン: 麻布消防署から5分以内に到達可能なエリアを地図上に可視化し、救急体制の評価に役立てる。デリバリーサービスの配達可能エリアを設定する。
(3) 最寄り施設検索 (Closest Facility Analysis)
ある地点から最も近い施設(または複数)を検索し、そこまでの最短経路を提示します。
① 利用シーン: 東京タワーで急病人が発生!最も近くにある3つの救急病院を瞬時に検索し、それぞれの病院へのルートと到着予測時刻を算出する。
(4) 巡回セールスマン分析 (TSP: Traveling Salesperson Problem)
複数の目的地をすべて巡回する必要がある場合に、最も効率的な訪問順序とルートを計算します。
① 利用シーン: 港区コミュニティバス「ちぃばす」が、ルート上の15ヶ所のバス停をすべて巡回するための最短走行ルートを計画する。
(5) 物流配送分析 (VRP: Vehicle Routing Problem)
巡回セールスマン分析をさらに発展させた機能です。複数の配送トラックが、1つの拠点(デポ)から出発し、それぞれ異なる荷物を複数の配送先に届ける際の、最も効率的なルート割り当てと配送順序を計算します。トラックの積載量や稼働時間といった制約も考慮できます。
① 利用シーン: 港区の港南地区にある物流センターから、区内各地のスーパーマーケットへ商品を配送する複数のトラックの最適ルートを計画する。
3. 特殊な応用:ダイナミックセグメンテーション
これは少し高度な機能ですが、道路や鉄道、パイプラインなどの線形インフラを管理する上で非常に強力です。路線データを細かく分割することなく、路線上の「キロ程」や「距離標」に基づいてイベントデータ(例:「5.2km地点から5.8km地点まで、路面状態は良好」)を管理・表示する技術です。
① 利用シーン: 首都高速道路の路線データに対して、区間ごとの舗装状況、交通量、事故発生履歴などを関連付けて管理する。
まとめ
今回は、iDesktopXの交通ネットワーク解析機能をご紹介しました。最短経路の探索から、サービスエリアの算出、さらには複雑な物流配送計画まで、これらの機能は単なる地図を、物流、都市計画、防災、マーケティングなど、あらゆる分野で活用できる強力な意思決定支援ツールへと変貌させます。
次回は、**第12回「ライフラインを分析!施設ネットワーク解析」**です。水道やガス、電力網など、流れの「方向」が重要なネットワークの解析について解説します。お楽しみに!
付録:サンプルコード(Python)
iDesktopXのPython IDEを使い、交通ネットワーク解析の最も基本的な機能である「最短経路分析」を実行するサンプルコードです。
Python
# -*- coding: utf-8 -*-
from PySuperMap import *
from PySuperMap.Analyst import *
def network_analysis_sample_in_minato():
"""
港区の道路網データで最短経路分析を実行するサンプル
"""
try:
# ワークスペースとデータソースを取得
workspace = Workspace()
datasource = workspace.get_datasource("Minato_Data")
if datasource is None: return
# ネットワークデータセットを取得
network_dataset = datasource.get_dataset("Road_Network_Minato")
if network_dataset is None or network_dataset.get_type() != DatasetType.NETWORK:
print("ネットワークデータセット 'Road_Network_Minato' が見つかりません。")
return
print("最短経路分析を開始します...")
# 1. 交通ネットワーク解析アナリストを作成
# "Length" フィールドをコスト(重み)として使用
analyst = TransportationAnalyst(network_dataset, "Length")
# 2. 解析パラメータを設定
parameter = TransportationAnalystParameter()
# 開始点と終了点を設定 (例:東京タワー付近と品川駅付近の座標)
start_point = Point2D(139.7454, 35.6586)
end_point = Point2D(139.7395, 35.6282)
# 経由地点としてノードIDまたは座標点を設定できる
# ここでは座標点を設定
nodes = [start_point, end_point]
parameter.set_points(nodes)
# 3. 最短経路分析を実行
result = analyst.find_path(parameter)
if result is not None and result.get_route_count() > 0:
print("最適ルートが見つかりました!")
# 4. 結果を新しいデータセットとして保存
result_dataset_name = "Optimal_Route_Result"
# 既存のデータセットを上書きする設定
if datasource.get_datasets().is_exist(result_dataset_name):
datasource.get_datasets().delete(result_dataset_name)
# 結果はGeoLineのリストとして返される
routes = result.get_routes()
# 最初のルートをデータセットとして保存
datasource.get_datasets().create_from_geo_line(result_dataset_name, routes[0])
print(f"結果がデータセット '{result_dataset_name}' として保存されました。")
# 地図に追加して可視化
map_view = workspace.get_active_map_view()
if map_view is not None:
map_obj = map_view.get_map()
layer = map_obj.get_layers().add_dataset(datasource.get_dataset(result_dataset_name))
# スタイルを設定して見やすくする
style = GeoStyle()
style.set_line_color(Color(255, 0, 0))
style.set_line_width(1.0)
layer.set_style(style)
map_obj.refresh()
else:
print("ルートが見つかりませんでした。")
except Exception as e:
print(f"エラーが発生しました: {e}")
finally:
if 'analyst' in locals() and analyst is not None:
analyst.dispose()
if 'result' in locals() and result is not None:
result.dispose()
if __name__ == '__main__':
network_analysis_sample_in_minato()
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