Web 3D GIS:Cesium/3D TilesとSuperMap/S3M、それぞれの強みと連携の道を考える

PLATEAU(プラトー)に代表される3D都市モデルのオープンデータ化が進み、Webブラウザ上で3D地図を扱うことは、もはや当たり前の時代になりました。

このWeb 3D GISの世界には、オープンソースの王者「Cesium」とそのデータ形式でOGC(国際標準化団体)の標準規格でもある「3D Tiles」

いっぽう、GISのグローバルベンダーであるSuperMapが開発・推進する、無償のWebクライアント
「SuperMap iClient」と、高性能なオープンストリーミング形式「S3M」があります。

これらは単なる競合関係なのでしょうか?今回は、それぞれの強みを理解し、両者をいかにして連携させ、プロジェクトを成功に導くかを考えてみます。

1. オープンソースのエコシステム:「Cesium」と「3D Tiles」

Cesiumは、Web上で3D地球儀や地図を表現するための、世界で最も広く使われているオープンソースJavaScriptライブラリです。そのデータ形式である3D Tilesは、OGCの公式な標準規格として採用されています。

  • 強み: OGC標準という信頼性、世界中の開発者に支えられた広大なエコシステム、そしてカスタマイズの自由度が高い柔軟性にあります。特定のベンダーに依存しない、データの長期的な資産価値を保証します。

2. パフォーマンスを追求するエコシステム:「SuperMap」と「S3M」

SuperMapは、プロフェッショナルなGISの要求に応えるため、オープンの3Dストリーミング形式「S3M(Spatial 3D Model)」を主導的に開発するオープンな規格として仕様を公開しています。

  • 強み: BIM/CIMや点群といった、多様かつ大規模なGISデータをWeb上で高速に表示するために徹底的に最適化されたパフォーマンスが最大の強みです。デスクトップGIS「SuperMap iDesktopX」で多様な生データからS3Mを生成し、サーバー「iServer」で配信、クライアント「iClient」で表示するという、シームレスで効率的なワークフローが提供されています。

3. どう連携させるか?― データの相互変換と相互運用の道

では、この二つの仕組みをどう連携させれば良いのでしょうか。SuperMapの戦略は、両者の共存を可能にする道筋を示しています。


(1) データの相互変換:S3Mと3D Tiles

SuperMapのデスクトップGIS「iDesktopX」は、この相互変換において、強力なハブとして機能します。多様な生データ(BIM, 点群, 3D都市モデルなど)から、まず最適化されたS3M形式を生成することが基本フローですが、S3M形式を3D Tiles形式へと高効率に変換するツールも存在します。これにより、SuperMapの強力なデータ処理能力を活かして生成した3Dデータを、より広いオープンソースのエコシステムで活用する道が拓かれています。

(2) 表示クライアントの相互運用性

  • CesiumでS3Mデータを表示する

    SuperMapは、オープンソースのCesium上でS3Mデータを直接読み込むためのプラグインを無償で提供しています。これにより、Cesiumベースの既存アプリケーション上でも、SuperMapの高性能なS3Mデータを活用できます。

  • SuperMap iClientで3D Tilesデータを表示する

    SuperMapのiClientは、OGC標準である3D Tilesの表示もサポートしています。

4.連携のメリットは?

この連携は、単に「どちらでも表示できる」以上の、戦略的なメリットを生み出します。

  • パフォーマンスとオープン性の両立

    最も負荷のかかる大規模データの処理と最適化はSuperMapの得意分野です。SuperMapのプラットフォームでS3Mや3D Tilesを生成・変換・配信し、フロントエンドの表示はオープンソースで柔軟なCesiumで行う、といった「良いとこ取り」の構成が可能になります。

  • 「適材適所」のツール選択

    SuperMap iDesktopXを、S3Mと3D Tilesの両形式を生成・変換できる強力な「データ作成ハブ」と位置づけることで、最終的なアプリケーションの要件に応じて最適なクライアント(SuperMap iClientかCesiumか)を選択する、という柔軟な開発が実現します。


  • 段階的なシステム導入

    既にCesiumで構築したシステムがある場合でも、SuperMapのS3Mプラグインを使えば、既存のアプリケーションを活かしながら、SuperMapの高性能なデータ配信基盤を部分的に導入するといった、リスクを抑えた段階的な移行や機能拡張が可能になります。

まとめ

Cesium/3D TilesとSuperMap/S3Mは、排他的な関係ではなく、プロジェクトの目的に応じて使い分ける、あるいは組み合わせることが可能な、相互補完的な関係にあります。

データの長期的な資産価値やオープン性を最優先するならCesium/3D Tiles。

特定のGISデータで最高のパフォーマンスと、シームレスなワークフローを求めるならSuperMap/S3M。

そして最も賢明なアプローチは、SuperMapのデータ処理能力をハブとして活用し、必要に応じてS3Mと3D Tilesの両形式を使い分ける「二刀流」の考え方かもしれません。

オープンソースの柔軟性と、商用プラットフォームの特化されたパワー。この両者を理解し、連携させることが、これからのWeb 3D GISプロジェクトを成功に導く鍵となります。

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